思いがけずロマンチック
「では君は、これまで総務の経験があるのか?」
有田さんの声にも確かな動揺が感じられる。
べつに驚かせたかったわけでも勝負していたわけでもないけれど、勝利に似た爽快感がこみ上げてきた。
「いいえ、ありません」
「経験が無いのに、どうして?」
「美濃さんも経験はありません、だったら私も同じです。私にもできるはずです」
胸を張って言い切った。
どこから湧いてくる自信なのか自分でもよくわからない。だけど、やってみせるという気持ちが湧き上がってくる。
有田さんは肩が揺れるほど大きく息を吐く。
「わかった、君に総務課へ異動してもらう。但し……」
意味深に続く言葉に、今にも飛び出しそうになっていた御礼の言葉が遮られた。
彼の目が私を捉える。
「兼務として、私の秘書を命じる」
真正面から私に投げかけられたのは、予想外だった重い言葉。重圧に耐えながら頷く私を見て、有田さんは端正な顔に笑みを浮かべた。