思いがけずロマンチック
総務課は役員室の真横のパーテーションで仕切られた小さな空間に、二台の机が向かい合わせに置いてあるだけ。人員は定年近い総務課長と私のふたりきり。
段ボール箱を抱えて、総務課へと足を踏み入れる。
「失礼します」
声を張って言ったものの、総務課長の返事はない。総務課長はパソコンのモニターを眺めたまま、ゆったりとした手つきでマウスを滑らせている。
綺麗に片づいた机の上には、味気ないグラスに挿した数本のポトス。そういえば総務課の姐さんが、毎朝トイレで水を変えていたのを見たことがある。
これからは私の仕事のひとつになるのだろう。
段ボール箱を置いて上体を起こすと、総務課長が今にも閉じそうな目で私を見ていた。モニター越しに注がれる視線は絡みつくように私を捉えているというのに、総務課長は口を開こうとしない。
「営業課から来ました唐津です、今日からお世話になります、よろしくお願いします」
不気味さを感じながらも姿勢を正して挨拶。
すると総務課長が立ち上がる。ゆったりとした見た目からは想像できない素早い動きだ。
「唐津さんだね、来てくれてありがとう。益子(ますこ)です、よろしく」
総務課長は目を細めて、口の端を上げて笑った。