思いがけずロマンチック
くにゃりと体を捻らせると同時に、王子の腕から滑り落ちた。縋るものもなく、なんとも情けない格好で思いきり尻もちをついて座り込む。
「痛っ……い」
情けない声を漏らした私の前に、王子がしなやかに手を差し伸べてくれる。
こんな私に情けをかけてくれるなんて、やっぱり王子様?
……と思ったのは束の間。
頭上から降ってきたのは大きな溜め息と苛立ち混じりの声だった。
「何してんだよ……、早く立って」
優しさの欠片なんて全く感じられない。
目が合うと王子は口を尖らせて、綺麗な大きな手で私の腕を乱暴に掴んだ。痛いほどの力で一気に私の体を引き上げる。
少しでも期待した私がバカだったのかもしれない。
無理やり立たせた私を放置したまま、王子は階段を駆け下りていく。ここから逃げたいのは私なのに、どういうことだ。
足の裏が冷たい。尋常ではない冷たさに足元を見ると、氷とコーヒーの水たまり。
まさかと後ろへと手を回したら、コートのお尻の部分が見事に濡れている。触れた手からはコーヒーの香りがぷんと漂う。
階段を数段下りた王子が、だらしなく転がっている片方のパンプスを拾い上げる。