思いがけずロマンチック

間もなく、私は役員室のドアを叩いていた。

有田さんは社長の席に着いて、社長の使っていたパソコンの大きなモニターの向こう側に隠れていた。顔を窺うことはできないけれど、入室前に聴こえた声は無愛想だったから緊張する。

さらに忙しなくキーボードを叩く音が、彼の苛立ちを表しているように感じられてしまう。


私は喧嘩をしに来たんじゃない。新しい社内規則を見直してもらいたくて、話し合うために来たんだ。
すうっと息を吸い込んで臨戦態勢。


「失礼します、少しお時間よろしいでしょうか?」


キーボードを叩く音が止み、モニターの向こうから有田さんが顔を覗かせる。目が合った途端に眉をしかめるから、条件反射的に歯をくいしばった。


「また君か、今度は何の用だ?」

「新しい社内規則のことでお聞きしたいことがあります」

「何かわかりにくいところでもあったか? それともまた問題点でも?」


柔らかな言葉遣いだというのに、完全に上から目線の口調が耳に障る。とくに『また』と言う言葉が、ちくりと私を刺激する。





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