思いがけずロマンチック
有田さんに頼まれたのは、過去5年間の社の実績を纏めること。きっちりした資料として残していないから、あちこちからデータを引っ張り出してこなければならない。
面倒な作業に苛立ちを抱える中、千夏さんから休憩に誘われた。
即日施行された新社内規則のため、いつもなら休憩室では見かけない顔ぶれがちらほらと。自席で飲み物を摂るぐらい……とボヤく声も聴こえてくる。
「ちょっと……、あの規則どういうこと?」
千夏さんが目を見開いて、怒りを露わにする。もちろん怒りは事務所内の飲食禁止ではなくて、社内恋愛の禁止に対するものだ。
飲食禁止については有田さんに聞いたことを千夏さんに伝えた。だけど社内恋愛禁止は結局言及できないまま、仕事を頼まれたからうやむやになってしまっている。
「今頼まれている仕事を片付けたら、きっと理由を聞いてみます。納得できない理由なら抗議します」
思いのほか語気が強くなったことに自分でも驚いた。千夏さんも目を丸くして、不思議そうに私の顔を覗き込む。