思いがけずロマンチック

『明日中に実績を纏めろ』だなんて有田さんが言い出したおかげで、急に慌ただしくなった。

皆が退社した事務所の中で、総務課のスペースだけ煌々と灯りが点っていて完全に取り残された気分になる。こんな所に益子課長と二人きりなんて、正直言って息苦しい。いっそのこと、ひとりきりの方が捗るかもしれない。

とくに会話も無く作業を続けていると、益子課長が口を開いた。


「ねえ、唐津さんは彼氏居るの?」


あまりにも唐突な質問に、キーを叩く手が止まる。なんてつまらないことを聞くんだろう。


「いません」


無視しようかと思ったけれど、さすがに上司の質問に答えないというのもどうだろう。それに、これってセクハラじゃない?


「じゃあ……社内に好きな人はいるの?」

「いません」

「そっか、それなら新しい規則なんて関係ないね」


まったく何を言ってるんだろう。

今は余計な話はしたくないし、誰とも話したくない。この面倒な仕事を早く終わらせて、とっとと家に帰るんだ。ご飯を食べるよりもお風呂に入るよりも、なによりも早く大好きなお布団に入って眠りたい。


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