思いがけずロマンチック
願い虚しく益子課長は話し続ける。話すよりも手を動かしてよ。と言いたい気持ちを込めてキーを打つ手に力を入れた。
「唐津さんは織部君の下で働いてたでしょ? だったら、知ってるのかなあ?」
意味深に語尾を上げて、パソコンのモニターの向こうから問いかけてくる。こちらへ顔を覗かせたりしないだけマシかもしれないけれど、不快極まりない。
「何のことですか?」
「彼、社内に付き合ってる子が居るでしょう?」
さらりと流すつもりの私の痛い所を突いてくる。いくら問われても話す気はさらさらないけれど。
「いいえ、知りません。今初めて聞きました」
「本当? 僕見ちゃったんだよ、昨日の帰りにショッピングモールで織部君と彼女が買物してるところ」
「そうですか」
これ以上、私には答えようがない。
益子課長は『彼女』と濁しているけれど、きっと千夏さんのことを指している。あえて名前を言わない理由は私を試しているからなのか。それとも益子課長が口に出したくない名前だからなのか。