思いがけずロマンチック
「気をつけろよ」
ひと言吐いて、王子はパンプスを置いた。
素っ気ない言葉で私を突き放して、もう目すら合わせようとはしない。踊り場に落ちたバッグを拾い上げて、ジャケットを整える。
胸元のコーヒーのシミに気づいたのか、ひとつ溜め息。
明らかに落胆した横顔が胸を締め付ける。
「すみませんでした、クリーニング代払います」
「いらない、俺のことより自分のことを気にした方がいい」
申し訳ない気持ちから出た言葉でさえ、受け付けようとはしてくれない。畳み掛けるような強い口調で言い返されてしまっては、もはや何にも言い返すことができない。
その口調が王子の今の気持ちを物語っているようで。
こんなことなら、妙な競争心を抱くんじゃなかった。
こみ上げてきた後悔が、あっという間に胸の中を埋め尽くしていく。
単純に不運だったとか、ついてなかったでは済まされないことなのかもしれない。