思いがけずロマンチック
「この手を退けてください」
今すぐ退けないと、本当にセクハラで訴えってやる。私の忠告を無視して、益子課長の手が私の肩を強く握った。
「織部君たちのこと、どうしたらいいと思う?」
息遣いが感じられるほど近くから聴こえた声に、ますます苛立ちがこみ上げる。
もうこれ以上は我慢できない。
「何にも見なかったことにすればいいじゃないですか、忘れましょう」
「でも……、自分に嘘をつくなんて嫌じゃない?」
「全然、嫌じゃないです。忘れたらいいって言ってるでしょう?」
肩に載った手を振り払って、立ち上がった。きっと睨むと益子課長は怯んだ様子で後退り。何か言い返そうとしているのか、開けた口を震わせる。
一歩踏み出したら、益子課長の肩が大きく震えた。
「唐津さん、落ち着いて……」
「落ち着いてます、つまらない事をぐだぐだ言わないで、黙って早く仕事済ませてくださいよ」
ひと息で勢いよく言い放った。益子課長は息を吸い込んで口を閉ざしたきり、体を硬直させている。
「もう、絶対に邪魔しないでください」
念を押して、席に着こうと振り向いた。
視界の中にあるはずのない影が映り込む。