思いがけずロマンチック
まるで私の反論をこれ以上は受け付けないと言いたげな態度だ。このまま、うやむやにはさせたくなたい。
「だからと言って、規則で縛り付けるのはおかしいと思います、活力を失うだけです」
なんとか振り向かせようと強い口調で投げかけた。
すると、言い終わらないうちに有田さんが振り返る。表情は険しく固いまま、あろうことか私の方へと歩いてきた。
さすがに、怒らせてしまったのかもしれない。
有田さんは強張る私を見下ろして、ゆっくりと手を差し伸べる。避けようと椅子ごと後退りしたけれど、袖机に引っかかって動けない。
有田さんの手が私の頬に触れた。
「同じ職場に好きな人が居たら、仕事中にこんな事をしたくなることもあるだろう?」
と言って、頬を包んだ手を滑らせながら顎を持ち上げる。
見上げたら王子様。
ふわりと目を細めた顔は、あの時階段で私を助けてくれた顔とよく似ている。途端に、鼓動が跳ねるように加速していく。