思いがけずロマンチック
「莉子ちゃん、有田さんはどう?」
「どうって?」
とぼけてみたけれど、すぐにわかった。千夏さんが、彼氏のいない私に有田さんを勧めようとしていると。
「秘書に指名されて、一番近くで仕事してたら……恋が芽生えてもおかしくないでしょう?」
声を潜めながらも千夏さんは得意げな顔で頷く。口角を上げて目を輝かせて。
「絶対にあり得ないです、それに規則があるじゃないですか……」
言いかけたところに、千夏さんが手をかざす。
ゆっくりと千夏さんの視線を追いかけると、休憩室を出て行く有田さん。手ぶらで帰って行くということは結局何も買わなかったのか、満席だから諦めたのだろうか。
そんなことを考えているうちに、千夏さんが私の顔を覗き込んでいた。すっかり笑みの消えた真剣な目で。
「それ、いいかも。莉子ちゃん、有田さんを落としなさい」
一瞬、呼吸が止まりそうになった。すぐに反論しようとするのに、口を開けても声が出てこない。
「落とす? ……って?」
「有田さんをゲットするのよ、自分が違反したら恋愛禁止令を撤回するしかないでしょう?」
ようやくこぼれ出た反論を、千夏さんが声のトーンを落として斬り捨てる。
もう、返す言葉は見つからなかった。