思いがけずロマンチック
さて、どうやって攻めようか。
私は特に効果的な武器なんて持っていない。
今まで25年間生きてきたけれど、好きになった人はいても告白なんてしたことない。しかも今回の場合は本気ではなく策略。
「まいったなあ……」
「何が?」
背後から舞い降りてきた予期せぬ声に、ぶるっと背筋が震えた。つい漏れてしまった声を拾い上げたのはよりによって有田さん。
意を決して振り向くと、いっさい揺らぎのない表情で私を見下ろしている。
役員室に引きこもっていると思っていたのに、
いつの間に来たんだろう。言いたい気持ちを抑えて、とりあえず笑顔で会釈した。
「あ、企画のことでちょっと……」
「営業の仕事か? 引き継ぎは進んでいるのか?」
「はい、ほとんど終わってますが、一件だけ私が最後まで担当することになっているんです」
「先の長い仕事なら営業に引き継いだ方がいい、仕事を抱え込み過ぎて負担が増えるだけだ」
無責任とも思える突き放すような言い方だ。何にもわかっていないのに勝手なことを言ってくれる。
「先は長くありません、来月のイベントなので最終調整しているところです、夕方に約束があるので……」
言いかけた私の手から企画書が奪い取られた。
有田さんは何にも言わずに企画書に目を通していく。相変わらず何を考えているのかわからない揺らぎのない表情で黙々と。