思いがけずロマンチック
やがて顔を上げた有田さんは、企画書を机に放り投げた。
「こんなもので、クライアントは納得しているのか?」
小馬鹿にしたような乱暴な口調は、まるで喧嘩を売っている。そうでなければ根本的に私を否定したいとしか思えない。
「こんなもの? すべて打ち合わせで確認して合意したことばかりです、何の問題もありません」
きっと睨んでみたけれど有田さんは涼しい顔。一向に目を逸らそうとしないから、いつの間にか睨み合いになっていた。
私の負けん気が、ふつふつと湧き上がってくる。先に目を逸らした方が負けだと固く口を結んで睨み返すと、有田さんが小さく息を吐いて目を逸らした。
やった、私の勝ち。
「もう一度練り直しだ、これで合意してると言うなら俺もついて行く」
勝ったと思ったのに、返ってきたのは予想外の言葉。
イベントのことも経緯もクライアントのことも、この会社のことも何にもわかっていないくせに、やり直しなんて言われる筋合いはない。
「この内容では地味で目立たない、会場で埋もれてしまっては客も集まらないし出店する意味がない」
「地味? ですが、百貨店の規約もあります」
「規約をギリギリ守る範囲内で考えられることは他にもある、今からもう一度提案できることを挙げてみろ」
言い捨てたきり、有田さんは役員室へと入ってしまった。私に反論の余地も与えてくれずに。