思いがけずロマンチック
私の会社から電車に乗って一駅、笠間さんの店『くるみ堂』は茜口駅から歩いて数分の場所にある。メインストリートから一筋入った静かな街並みに溶け込んだ、こじんまりとした可愛らしい建物だ。
併設されたカフェスペースはテーブルが三脚だけ。いつ来ても満席で、ご近所の奥様たちの笑い声が飛び交っている。
「隠れ家、と呼ぶに相応しいな」
店の外観を見渡して、有田さんが呟いた。
運悪く私たちが到着した時、店はお客さんの波が押し寄せていたところ。笠間さんもカウンター越しに接客をしていたから、私たちは店の外で待つことにした。
幹線道路から離れているから静かで、居ごこちのよさが店の外からでも感じ取れる。
「本当に、ここは素敵な隠れ家ですよ、気持ちよく落ち着ける空間です」
「プライベートで来たことがあるのか?」
「はい、何度かあります、広報課の美濃さんに教えてもらったんです、本当は誰にも教えたくないんですけどね」
つい本音が出てしまう。
最近地元の情報誌に紹介されたおかげで、以前よりお客さんが増えた。自分の好きな店が皆に認められて嬉しい反面、悔しくもあるのたけど。
私の気持ちを察したのか、有田さんがふっと鼻で笑う。