思いがけずロマンチック
ところが足音はどんどん近づいてきて、3階を超えても消えやしない。
いったいどんな人なのか、気になるけれど私と同じ会社の人でないことは確か。階段なんて使わないと豪語している人ばかりだし、階段を使っているのを見たことない。
重厚感のある足音は男性っぽいけれど、振り返って確かめるのもしゃくに障る。
勝ち抜けするつもりだったのに、息が上がってきたことに気づいてしまったから余計に焦りが倍増する。手に持った買い物袋とアイスコーヒーが擦れ合って、不快な音を立てるのが耳障り。
踊り場を曲がったところで視界の端に黒い影が
映り込む。ほっそりした黒っぽいスーツを着た男性らしき姿が、弾みながら迫ってくる。
その後すぐ、階段を踏み外した。
階段を上がり損ねたヒールが角に引っ掛かって、体の重心が後ろへと引っ張られる。手から滑り落ちるカップと遠ざかる景色が、まるでコマ送りを観ているよう。