思いがけずロマンチック
ちょっと待って、心の声が叫んでる。
「有田さん、今日はこの後、何か予定はありますか?」
何の考えも、ためらいもなく問い掛けた。
だって『誘うなら今しかない』と私には聴こえたから。
不意打ちを食らった有田さんは、せっかく緩んでいた表情を引き攣らせる。
「いや……、今日はとくにないが……」
さっきまでの力強さなんてどこへやら。うろたえ気味の有田さんなんて見たことないから、笑いを堪えられなくなってくる。
「だったら、一緒にご飯食べに行きませんか?」
「は? どうして……」
「どうしてって、お腹空いたからです」
「そうだが……」
と言って、有田さんは腕時計を目確かめる。きっといい答えが返ってくるはずだと確信して、胸がぞわぞわしてくる。
ところが、有田さんは眉間にしわを寄せて怖い顔。
「いや、ダメだ、今日はもう遅い」
激しく首を横に振って、私をじっと睨みつけてくる。
気まずさに目を逸らして休憩室の壁にかかっている時計を見上げると、もうすぐ9時になろうとしている。
こんな時間から晩御飯を食べたら太るからいけないとか。そんなことを有田さんが気にしているとは思えない。まさか私への忠告なのだろうか。