思いがけずロマンチック

それでも諦めてなるものか。
鋭い視線を跳ね退けるように、私も睨み返した。うんと両足を踏ん張って、息を吸い込む。


「だったら軽くお茶でもしませんか?」

「ダメだ、今コーヒー飲んだだろ? 早く帰れ」


きっぱりと言い切って、有田さんはコーヒーを飲み干した。もはや縋る余地なんてなかった。


有田さんを食事に誘うのは見事に失敗。
私を休憩室に残したまま、有田さんはとっとと役員室に戻っていってしまった。


何にも考えなんてなかった。突発的に出てきた言葉を、そのままぶつけてみたのだから仕方ない。今度こそ何かしら策を練ってから臨んでみせる、と心に決めて自席に戻った。


すると益子課長の姿はなく、机上は綺麗に片付いている。

なんとなく予想はしていたけれど、逃げるように帰ってしまうなんて腹が立つ。しかも、部下を残して帰るなんて上司としてどうなの? 


怒りを感じながらも、私も片付けて帰ることにした。


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