思いがけずロマンチック
絶対に益子課長がチクったんだ。
総務課に戻ると、自席に着くより先に益子課長の席へと向かった。益子課長はぎょっとした顔で、私を見上げて後退る。
「唐津さん? どうしたの?」
「今役員室に行ったら、織部さんと美濃さんがいたんです。何か心当たりはありませんか?」
身を乗り出して、声を押し殺しつつ詰め寄った。もちろん誰にも聞かれないたりしないように、最新の注意を払って。
「いや、知らないよ。本当に僕は何にも知らないんだ、神様に誓ってもいい」
益子課長は両手を上げて降参のポーズで、大きく頭を振って否定する。神様に誓っても……なんて言うけれど信用ならない。
「本当のこと言ってください、益子課長しか考えられないんですけど?」
「嘘じゃない、本当に知らないんだ、どうして僕だけを疑う? 他にも二人を見たのかもしれないだろう?」
「他の人だったら見たとしても、何にも言わないでしょう?」
「そんなことわからないじゃないか、黙っていられないヤツだっているかもしれないだろ?」
いつしか益子課長と私の口論はヒートアップしてしまっていた。
それに気付いたのは益子課長が視線を上げたから。私の後ろの方を見ながら、愛想笑いと共に会釈する。つられて振り向いたら、有田さんが私たちを睨みつけている。