思いがけずロマンチック
何か言われるんじゃないかと思ったのに、私を一瞥して素通り。無言のままドアの方へと歩いて行ってしまう。機嫌を損ねてしまったかもしれないなんて、今は大した問題じゃない。
このまま行かせてなるものか。
「待ってください」
有田さんとドアの間に割り込んだ。逃げられないようにと、体を盾にドアノブをガードする。
「退きなさい」
「嫌です、教えてくれるまでは退きません」
低い声を発して、怒りを露わにする。
どんなに凄んでも無駄。教えてくれるまでは絶対に退くものか。
すると、有田さんが手を伸ばした。ドアを背に踏ん張る私を力ずくで退けようというのか。
そうはさせまいと、ドアに背中を押しつけて睨み返す。
有田さんの手が視界の端を貫いて、僅かな風が頬を掠める。耳の傍でドアを小さく叩く音を感じたのと同時に、私の後頭部がドアに触れる。
これは、もしかしてセクハラ?
いや、壁ドンというものかもしれない。
冷ややかな目で私を見据えたまま、有田さんの顔が近づいてくる。息遣いが感じ取れてしまいそうなほど近くまで迫ってきて、ゆっくりと顔を傾けた。