思いがけずロマンチック
まずは一歩前進。
だけど、緊張感が常に付きまとってる。
自分から男性を食事に誘うなんて初めて。と言っても男性からも誘われたことは……、これまでにたった一度きり。もう何年前のことだろう。男性と二人きりで食事なんて、どんな感じだったかさえ覚えていない。
有田さんみたいな無愛想な人と会話なんて続くのだろうか。何を食べに行ったらいいんだろう。不安ばかりが浮かんだり消えたりするけれど、これも私の使命。やり遂げなければ。
ようやく約束できたことを報告をするために、千夏さんを休憩室に呼び出した。本当のことを言うと、さっき役員室に呼び出されていた理由を聞きたい気持ちの方が勝ってる。
休憩室に誰もいないことを確かめて、コーヒーを買って席に着く。うんとテーブルに身を乗り出して、顔を近づけたら声を潜めて問いかける。
「さっき、役員室で何を言われてたんですか?」
私の問いかけを聞いている千夏さんは、最後まで表情を変えない。ずっと強張らせたままだから悪い方へと考えてしまう。
聞き終えた千夏さんは、周りに誰もいないことを確かめてから頷いた。