思いがけずロマンチック
「私もね、本当にびっくりしたの、すごく覚悟して行ったんだけどね」
千夏さんの口から溢れた言葉は意外にも軽い。深刻な雰囲気など感じさせない声に、疑問ばかりが浮かんでくる。
だって私は最悪の事態を予想していたから。
「それで、どうだったんですか? バレたんですか?」
「そうじゃないみたい……、付き合ってるのか? って聞かれてたから違いますって断言はしたんだけどね」
と言って、千夏さんが首を傾げる。
どういうことなんだろう、尋問だとは思うのだけど千夏さんの反応に切迫感はない。
「バレてないってことですか?」
「そうなのかなあ……、特に咎められなかったのよ。どこで誰が見てるかわからないから、疑われるような行動は慎むようにって」
「え? それって……誰かに見られたんじゃないですか?」
「それは言わなかったけど、全然大したことなかったから驚いたよ」
「本当に? 何にもなかったんですか?」
「うん、『疑わしきは罰せず』なんじゃない?」
千夏さんは笑って、コーヒーをひと口。
「心配かけてゴメンね」と言って、すっかり解決したと思っているようだ。
なんだかスッキリしない。
二人の交際がはっきりとバレた訳でもなく、お咎めなしだったのは何よりも良かったけれど。
やっぱり益子課長が疑わしく思えてならない。