思いがけずロマンチック

事務所のドアを開けてすぐ、目に飛び込んだのは課長のただならぬ表情だった。毎朝誰よりも早く出社して机に向かって黙々と仕事を始めているはずの課長が、顔いっぱいに焦りの色を滲ませて駆けてくる。


私に何か用があるのかと思って身構えたら、

「唐津(からつ)さん、おはよう」

と早口で告げただけ。ひょいと軽い身のこなしで私とドアの間を潜り抜けて、事務所を飛び出していった。
課長の背中を見送ると会議室へと駆てけていく。朝から緊急会議なんて珍しい。

いつもとは違う課長の様子に違和感を感じつつ、とりあえず自席へと向かうことに。


ところが、事務所の様子も何だか変。


ぽつんぽつんと立ち話している人たち、席に着いてパソコンを睨みつける人たち、一見すると何ら変わらないように見えるけれど何かが違う。誰の表情も暗く険しくて、深刻そうに考え込んでいるようだ。

ひやりとしたものが背筋を伝うような感覚と同時に胸騒ぎ。


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