思いがけずロマンチック

私の所属は小さなイベント会社の企画営業課。毎朝始業前から電話とキーボードを叩く音が響いているはずなのに、今日はやけに静か。

隣の席の先輩、織部(おりべ)さんも様子がおかしい。いつもなら私より先に挨拶してくれるはずなのに、気づかない様子で机に肘をついてモニターを見たまま固まっている。


「おはようございます」


織部さんの視界に飛び込むように、勢いをつけて顔を覗き込む。それなのに織部さんは驚くそぶりも見せず。ゆっくりと振り向いた織部さんの表情は力なく、今にも項垂れてしまいそう。


「どうしたんですか? 具合悪いんですか?」

「いや……会社が潰れたんだ」


織部さんが弱々しい声を漏らす。沈んだ声ばかりに気を取られて、肝心な内容はたいしたことないように思える。

なるほど、今日は四月一日。


「え? あ……、もしかしてエイプリルフールですか?」

「だったら、いいんだけどなあ……」


ふっと力なく笑って、織部さんは首を振った。


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