思いがけずロマンチック
「有田さん、会社の改革にあたってお願いがあります」
ぽろりと溢れた言葉に、有田さんの表情が僅かに強張った。何を言おうとしているのか、まるで予見したような顔で私を見据える。
「何だ? とりあえず聞こう」
明らかに声のトーンが明らかに下がった。
聞こうと言いながらも聞く気なんて感じられない冷ややかな目が威圧的。私を抑えつけようとしているに違いない。
「社内恋愛禁止令を撤回してください」
「またそれか……言ったはずだ、何度も言わせるな」
予想した通りの答え。
さっきまでの笑顔はどこへやら。有田さんは一気に不機嫌になって、目を逸らしてしまう。
やらかしてしまったと思ったけれどもう遅い。
「今時、時代遅れな規則だと思います、好きになった人がたまたま同じ会社にいるなんて、ごく普通のことだと思うんです」
「普通じゃない、そんな気持ちを仕事に持ち込むな、わかったな」
「わかりません、一日のうち一番長い時間を一緒に過ごして、仕事しながら苦労や達成感を通して生まれる気持ちもあるんです」
「そんなものない、余計なことだ、就業中は仕事以外のことを考えるな」
「お願いします、もう少し柔軟に……」
言いかけた途中で、有田さんが胸ポケットからスマホを取り上げた。忙しく震えるスマホの画面を確かめて、立ち上がる。
「悪い、ちょっと待ってろ」
と言って、有田さんは席を外してしまった。