思いがけずロマンチック
また怒らせてしまった。
撤回してもらうためにゲットなんて私には難しい。しつこいほど言い続けた方が印象に残って、なんとかしようという気持ちになってくれるかもしれない。
「唐津さん? だよね?」
有田さんじゃない、聞き覚えのある声が降ってきた。
顔を上げると悪い予感は的中。
「九谷(くたに)君?」
「久しぶり、こんな所で会うなんて、すごい偶然だね」
九谷君と会うのは何年ぶりだろう。大学生の時以来、いや彼と別れて以来かもしれない。スーツに身を包んだ体がずいぶん逞しくなった気がする。
こんな所で会いたくなかった。
違う、もう会いたくなかったのに。
「一緒に居たのは彼氏?」
「いいえ、会社の上司です」
「ふぅん、どんな仕事してるの?」
「企画会社の営業」
「へぇ……唐津さんが営業なんて意外、全然想像できないよ、俺は不動産会社のバイヤーだ」
そんなこと聞きたくない、早くここから居なくなってよ。
願い虚しく九谷君は図々しく話す。知りたくもないし聞きもしないことをぺらぺらと。