思いがけずロマンチック
「どうして営業なの? 唐津さんのイメージじゃないなぁ」
やっぱり、言われると思った。
九谷君と付き合ってた頃の私からは想像もつかないでしょう。積極的でもなかったし、話すのが得意でもなかった私を変えたのは九谷君。あなたが私に負けん気を植え付けてくれたんだ。
「そんなことないよ、九谷君こそバイヤーになったんだね」
「ああ、面白い仕事だよ、俺の引っ張ってきた土地に客が飛びつくんだ、俺の手で転がされてるようなものなのにな」
あの頃と変わらない高慢な話し方が鼻につく。目を細めて私を見下ろす九谷君は、揺るぎない自信に満ちている。
どうして、こんな人を好きになったんだろう。学生の頃の半年間とはいえ、この人と付き合っていたなんて思い出したくもない。
込み上げる苛立ちと怒りに堪える肩が、今にも震え出しそう。
「そうか、わかった。営業と言っても唐津さんは補助なんだろ? さっきの上司のサポート役だな」
「違うよ、私も担当だから」
勝手に決め付けないで、私だって本職の営業です。
「ウソだろ? どんな営業してんだよ?」
細めていた目を見開いて、九谷君が高笑い。ちくちくと周りの視線が突き刺さって、私の方が恥ずかしくなる。
どこまで私のことを馬鹿にしたら気が済むんだ。もしも挑発されてるとしたら、声を荒げて怒ったりしたら私の負けだと懸命に耐える。
だけど、もうそろそろ限界……