思いがけずロマンチック
5. 王子様と全力疾走
「なんだ……、結局進展無しだったのね」
千夏さんの大きな溜め息が、私にまで伝染する。
月曜日、休憩室で昼食を摂りながら千夏さんに報告した。あまり気は進まないけれど一部始終を。
有田さんとの食事は滞りなく終わった。九谷君を追っ払った後、さっさと食事を済ませて終了。九谷君の登場で有田さんと私の雰囲気は、さらに良くないものになった。私が社内恋愛禁止令の撤回を求めた時よりも。
もしも九谷君の登場がなかったら、私が余計なことを言わなければ、もう少しだけでも良い方向へ進んでいたかもしれない。有田さんゲットに近付くことができたかもしれない。
「すみません、ちょっと時間かかりそうです、たぶん警戒されてると思いますから」
そう答えるしかない。
本当は私には無理難題だと、最初からわかってる。千夏さんみたいに綺麗でもないし魅力的でもない。男性経験なんて学生の時に一度きり。しかも本気で好きになった人とは言えないのだから。
「うん、急がなくてもいいから確実な方法を考えなきゃね」
千夏さんが微笑んで、おにぎりにかじりついた。
休憩室のドアが開く。入ってきたのはよりによって有田さん。休憩室を見回して、まっすぐに自販機へと歩き出す。
その様子を見ていた千夏さんが、私へと顔を寄せてくる。
「いいこと、思いついた」と声を潜めて。