思いがけずロマンチック
どうして私がこんなことをしているんだろう。
なんだか納得できない気持ちを抱えながら、私は役員室のドアを叩いた。
「何の用だ? まだ何にも頼んでいない」
朝一番の有田さんはとくに不機嫌らしい。いつも以上の無愛想な口ぶりと、感情の読みとれない表情で私を迎える。
「おはようございます、これ食べてください」
有田さんのデスク横に回り込んで、紙袋を差し出した。
有田さんは受け取らず、紙袋ではなく私を見つめたまま固まっている。
思いきり警戒しているようだ。
「これは何だ?」
「お弁当です、毎日外で食べてらっしゃるから、たまには気分を変えて……と思って、作ってきました」
早く受け取って、と催促を込めて紙袋を前に突き出した。今にも有田さんの腕に触れそうな距離だというのに、まだ受け取ろうとはしない。
変な物なんて入れてないから大丈夫。と微笑んでみせる。
「無駄だ、何を企んでいるのかわかっているんだ」
悲しいかな、返ってきたのは警戒心丸出しの低い声。斜め下から見上げる目つきはやっぱり怖い。
「安心してください、何にも企んでいませんから」
もう一度、精一杯の笑顔で返す。
それでもまだ、有田さんの警戒は解けないらしい。睨み合ったまま沈黙が漂い始める。
すると、机上で電話が鳴りだした。
「受け取るが、要求は聞き入れられないからな」
と言って有田さんは紙袋を奪い取り、受話器へと手を伸ばした。