思いがけずロマンチック

席に戻ると、益子課長が待ちかねていたかのようにモニターの向こうから身を乗り出した。


「金曜日の交渉は上手くいった? 何か忘れて行ったの? あの方が戻ってきて必死だったけど」


有田さんを警戒してか、小声で話問い掛ける。知りたい気持ちはわかるけど、警戒するなら聞かなくてもいいのにと思ってしまう。


「企画書に不備があったので、有田さんが取りに戻ってくれたんです」

「大変だったねぇ……、前にも不備があったんだろ? お客さん怒ってなかった?」

「はい、許してもらえました」

「そう、契約が白紙にならなくてよかった。本番は失敗は許されないから気を着けた方がいいよ」

「わかっています、絶対に失敗しません」


益子課長は心配してくれているんだろうけれど、話し方がなんだか耳に障る。腹が立つというか、いらいらするというか、放っておいてほしいとさえ思ってしまう。


「ところで親睦会の場所だけど、港ホテルはどうだろう? 広報課長の提案なんだけどね」

「え、港ホテルですか?」


あまりにも驚いて、息が停まるかと思った。聞き返した声は微妙に裏返ってしまったけれど、不自然にに思われたりしなかっただろうか。


だけど、どうして港ホテルなの? 


まさか有田さんと食事してたのを益子課長に見られていたのだろうか、あんな所に居たはずない。


悶々とした気持ちとともに、九谷君に再会してしまったことまで蘇ってくる。





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