永遠の宝物



勇気が無い、と。



それは逃げだ、と。



判っていても

思春期に訪れた溝は

早々埋められるものではなく、

きっかけが欲しいと

他人任せのように過ごしている。



気が付くと

そこに佇んだままで、

辺りは随分と暗くなっていた。

スムーズに流れるようになった

音色がピタッと止み、

少し寂しい気持ちで

ピアノ教室だった部屋に

目を向けた。



そこで

カーテンを閉めに来ていた

瑠依と目があった。



瑠依の表情は

一目でも判る様に驚いていた。

そんな彼女に微笑んで、

気付いたら手招きをしていた。



彼女の姿が見えなくなると、

深呼吸をした。

すれ違っても

挨拶程度にしか

交わさない俺から、

まさか呼び出されるとは

想っていなかったのだろう。

慌てて玄関から

出て来た彼女を見て、

神に感謝した。



このチャンスを逃したら

後は無い。

溝が埋まるとしたら、

今を置いて他には無いだろう。

どうしても

この距離を戻したい。

あの頃のように

お互い子供ではないけれど、

新しい関係を

築いていきたい。





俺の運命の人は瑠依なのだから………




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