【完】ぎゅっとしててね?
廊下を巡る音楽は雑音。


ふたりの声に耳をすませた。



「やっちゃんのこと、やっぱり好き」



麻里奈ちゃんの小さな唇は、はっきりとそう言った。



ぽかんとするヤヨを、麻里奈ちゃんのうるうるした瞳が見上げる。


さらりと揺れた黒髪。


背伸びをした小柄な麻里奈ちゃん。
次に起こること、想像つくのに。




目が離せない。



「……」


数秒の間があった。


そのあとすぐに、麻里奈ちゃんの赤い唇はヤヨの唇と、あっけないほど簡単に重なった。




……なにそれ。


絶対避けれたじゃん、今の。



そんな簡単に麻里奈ちゃんのキス、受け入れちゃうんだ。


じゃあなんであたしにキスしたの?


なんであたしに好きっていったの。




「……何、麻里奈……」



ヤヨはそれだけ呟いて、呆然と立ち尽くしてた。



「好きな子なんか忘れて、私の彼氏になって?」



麻里奈ちゃんの可愛らしい声が、あたしのところまで届いた。



ヤヨ……何も言わない。



「……」



ヤヨが口を開くまで待てなかった。



ドリンクバーに背を向けて、
カラオケルームまで急いで戻った。



キスも拒まない、
告白もすぐに断わらない。



3年間も付き合った相手だもんね。



……まんざらでもないんでしょ。




カラオケルームで、藍の歌に入り込むの。


関係ない。


あたしには、あんなの、なんにも関係ないのに。




……むかつく。



もう、やだ。


ヤヨの馬鹿。




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