【完】ぎゅっとしててね?
心臓のド真ん中。
射抜かれるのは
慶太くんだけでいい。




     ♡

翌日。HRには余裕で間に合ったよ。


チョークをにぎり、
黒板に書いた座席表に番号を振っていく。
そのたびに教室のあちこちで一喜一憂する声が聞こえる。



「じゃあ席は今日からこれでお願いしまーす」



今、席替え完了したところ。



あたし、無念。
教卓の目の前。
悪運にびっくり。



ヤヨは……。大当たりだね。
一番廊下側の後ろから2番目。



席も離れたし。
少なくとも前よりは、”距離”ができるはず。
それもより自然に。あたし天才?
完璧。



「放課後クラス委員は職員室に来てくれるかー?」



……これさえなければ。



放課後になって、結局はヤヨとふたり。


職員室に行って、返却のノートと新品のチョークもらって、今日のお仕事はおしまい。



「芙祐はそっち持っていって」



ってチョークの箱だけ。
ヤヨの優しさ。
いらないのに、そんなの。


「…ありがと」



少し距離とって歩こうとしてもね。
ヤヨはジェントルマンだからね。
あたしに歩幅あわせてくれるの。いつものこと。



「席替え、満足したのかよ」


「え?…も。もちろんだよ」


一番前の席とか。
超成績あがりそうじゃん。



「何やってんだか」



ヤヨが呆れた目で見てるよね。



「ヤヨのせいじゃん」



「なんでだよ」



「だってヤヨちゃ」



っと。
危ない、いつもの癖が。
距離をとろう。
物理的な距離だけじゃなくて。心の距離。



教室について、サラのチョークの箱を教卓の上にポンと置いたら。


「じゃあ、ばいびー」



いつものように、
どうせヤヨはばいびーしてくれないから。
そのまんま、振り返らずに教室を出た。



英文科の棟へとつながる渡り廊下。



「ねぇ」



って後ろから呼び止められて、声の方を見たら。
昨日の子だ。
黒髪ロングの女子。
あたしに消えて欲しい人だ。




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