【完】ぎゅっとしててね?
スクールバッグに持ち物入れたら早く帰ろう。
最悪だもん、この空間。
あたし、1番前の席だけど。
後ろから2番目くらいの席にいる、ヤヨたちの声、普通に届くから。
「弥生って土屋さんと本当に何もねえの?」
「最近の2人って、なんか変だし」
「それに今のは、なぁー?土屋さんのこと好きなんじゃねぇの?」
ヤヨの返事を待つ男子たち。
暇人。
早く帰れ。
そう願ってるのに、
「好きだったら何だよ?」
ヤヨはわざとらしく
あたしに聞こえるくらい
はっきりと言い放つ。
がしゃん。
スクールバックに筆箱、入れ損ねちゃったじゃん。
「……っ!弥生がやっと認めた!!」
わっ、と盛り上がる男子たち。
あたしは筆箱を急いで拾って、スクールバックに詰め込んだ。
男子たちの話題は、まだヤヨとあたしのこと。
全部聞こえてる。
ヤヨの逆襲か、なんなのか知らないけど。
……もうやだ、この空間。
スクールバッグに机の上のものを仕舞ってたら、藍ちゃんが肩をトントン叩いた。
「芙祐、さっき弥生が言ってた"アレ"ってなに?」
ほらね、あんなに席の離れた藍にまで聞こえてたじゃん。
「はぁ……」
「芙祐顔赤いよー?」
藍ちゃん、にやにやしないで。
「赤くないよ」
藍の胸に飛び込んだ。
よしよしって頭ナデナデしてくれる。藍ちゃん。
「……ばかヤヨ」
もうやだ。
一気に引き戻される。
手の感触も、声も。
なんで頭から離れないの。