【完】ぎゅっとしててね?
桜の季節
SIDE 芙祐
***
4月に入って一番びっくりしたことは、ヤヨが理数科に移ったこと。
今年はクラス替えないのに。
教室のどこにもヤヨはいない。
「起立、礼!」
ヤヨよりぴしっとした声。
新しいクラス委員が号令をかけた。
1限、数学。
エースを失った痛手、大きいね。
黒板には長ったらしい数字の列。うんざり。
さっぱりしたショートカットの公式はもう見れない。
昼休みはあっという間。
毎日、変わらない日々。
「芙祐、元気なくない?」
「そんなことないよ」
藍ちゃんとお弁当を持って、英文科まで歩く。
「なにかあったの」
藍ちゃん、何度も聞くけどね。
ヤヨとの出来事、
冷静に話す自信ない。
「芙祐ちゃん、目ぇ死んでない?」
慶太くんは、いつもの目であたしを見つめる。
大好きだよって、目が言ってる。
「元気だよ。春休み明けでちょっと萎えてるけど」
言い訳。
なんかね。
慶太くんのその目、うまく見れない。