【完】ぎゅっとしててね?
♡
放課後の教室。
慶太くんと二人きり。
誰にも邪魔されない
この時間スキ。
でもなんか、
心、ぽっかり。
「芙祐ちゃん」
慶太くんはあたしの右手、ぎゅうって握った。
きらり、輝いた。あたしの指輪。
その輝きに注意が行ったその瞬間に
「キスしていい?」
耳元で優しい低い声。
アロンの香り。
「うん」
慶太くん、わざわざ聞くんだ。
奪ってくれていいのに。
あたしは慶太くんを見つめて、キスを待った。
「……やっぱやめた。帰ろ、芙祐ちゃん」
ぱっと手をほどいて、慶太くんは歩き始めた。
……なんで?
「なんでキスしないの?」
「んー?なんとなく。今日どこデート行こうか?」
「デート……」
「行きたいって言ってなかった?」
「行く」
あたしの半歩先を歩く。
慶太くんの様子がおかしいのは、怒ってるから?
あたしの様子が変だから?
「慶太くん」
待って。
でもその空いた手のひら、つかむ気になれない。
振り払われそうで怖かった。