【完】ぎゅっとしててね?


      ♡


放課後の教室。
慶太くんと二人きり。


誰にも邪魔されない
この時間スキ。


でもなんか、
心、ぽっかり。



「芙祐ちゃん」


慶太くんはあたしの右手、ぎゅうって握った。


きらり、輝いた。あたしの指輪。


その輝きに注意が行ったその瞬間に


「キスしていい?」


耳元で優しい低い声。
アロンの香り。


「うん」


慶太くん、わざわざ聞くんだ。
奪ってくれていいのに。


あたしは慶太くんを見つめて、キスを待った。



「……やっぱやめた。帰ろ、芙祐ちゃん」


ぱっと手をほどいて、慶太くんは歩き始めた。




……なんで?



「なんでキスしないの?」



「んー?なんとなく。今日どこデート行こうか?」


「デート……」


「行きたいって言ってなかった?」


「行く」


あたしの半歩先を歩く。


慶太くんの様子がおかしいのは、怒ってるから?

あたしの様子が変だから?




「慶太くん」


待って。


でもその空いた手のひら、つかむ気になれない。



振り払われそうで怖かった。



< 405 / 449 >

この作品をシェア

pagetop