【完】ぎゅっとしててね?
桜散るころ
SIDE 慶太
***
芙祐ちゃんからキスしてこなくなったのいつからだっけ。
「慶太くん、帰ろ」
飛び込むみたいに俺の腕を掴んできたのに、最近は全くしてこない。
「芙祐ちゃん、今日俺んち来ない?」
「行く」
けど俺の誘いにはふたつ返事で応える。
俺が手を差し出せば、小さな手はぎゅっと握ってくれる。
校門に差し掛かった時、弥生くんの元カノが見えた。
まだ親交あったんだね。
もういっそ、キミの存在すら困るんだけど。
俺は芙祐ちゃんの視界に彼女が入らないように、手を引いた。
「たまには寄り道しない?」
「うん?いいよ」
俺たちはUターン。
無事、成功したと思ったのに。
俺と芙祐ちゃんの視界に代わりにはいったのは
弥生くん本人の姿。
すれ違う時も、二人は目すら合わせない。
芙祐ちゃん、
なんでそんな目で地面を見つめてんの。
匠経由で聞いた藍ちゃんの情報によると
弥生くんの方から、芙祐ちゃんと縁を切ったとか。
……本当に余計なことしかしないよね。
「麻里奈!」
弥生くんはわざとらしく大きな声で彼女の名前を呼んだ。
芙祐ちゃんはその声に半分振り向いて、やめた。
「そういえば英語の課題終わった?」
「あ……うん」
にこり、いつものように笑ってくれるけど。
全身で弥生くんのこと気にしてるでしょ。
「慶太くんのおかげだよ。大好き」
毎日、毎日。
芙祐ちゃんは自己暗示でもかけるように
「大好き」って言う。
自己暗示、いつまでかけさせよう。
「俺も好きだよ」
そういうと、芙祐ちゃんは嬉しそうに笑う。