強引なカレの甘い束縛
「あ、大丈夫大丈夫。僕を含めて、あ、社長もだけど。会社の誰がいなくなっても、業務が滞るなんてことないから。代わりはいくらでもいるってことだけど、深く考えると落ち込むから考えずに、とにかく講座を受けておいで。俺も若い頃受けたことあるけど、途中休憩で出る和菓子が絶品なんだよなあ」
思いだすようにつぶやいたその顔は、この間バーベキューで見せられた子どものような表情で。
『この表情が好きだから、そばにいたくなっちゃうのよね』
と言っていた薫さんの言葉を思いだした。
なるほど、和菓子に思いを馳せている少年のような表情の大原部長。
仕事に追われて眉を寄せているよりも、かなり素敵だ。
きっと、この顔に薫さんは堕ちたのだろう。
あのバーベキューの意味を知って以来、陽太との関係が照れくさいものに変わってそれはそれで恥ずかしながらも嬉しいものではあるけれど。
プロジェクトが終了すれば確実だと言われている陽太の異動の話とセットになって私の今後についてもちらほら話が出るこの状況。
大原部長のバーベキューに陽太とともに出席したことが、ここまで社内で噂になるとは思わなかったけれど、陽太が好きだから、それはそれで受け入れようと思っていたのに。
そのための心の準備が整わないうちに新しい世界に足を突っ込んでしまったようで、逃げ出したくなるというより、元の世界に戻してくれと、大原部長にでさえ言ってしまいそうだ。