強引なカレの甘い束縛


「砂川さんが社内でラクに今の立場についたとは誰も思ってません。仕事ができることで男性からも女性からも妬まれることが多いし、見た目の良さも砂川さんにとっては息苦しいものだったって前に酔っぱらって言ってました」

「ああ。ここに来てはいつも仕事の愚痴を言ってるし」

「だけど、結局最後は砂川さんにみんなついていこうって思えるって……。陽太が言ってました。崇拝に近い感情です、きっと」

陽太が砂川さんを仕事の面で尊敬し憧れているのは前から知っている。

そして、そんな気持ちは陽太だけでなく、若手の多くが持つ感情なのだ。

だから、今こうして三人で話ができるなんて、陽太にとっては緊張することでもあり至福の時でもあるに違いない。

「新しいことを始めるときには誰でも緊張するし怖いからな。陽太もその例外じゃなく、普通の男だったってことだな」

「普通の男? もちろん、そうでしょ」

「まあな。だけど、陽太にとっても新しいことに足を突っ込んで、普通の男でい続けることは大変だってことだろ? 自分が緊張しているところを惚れた女に見せたくないに違いないのに、ほら見ろ。七瀬ちゃんのことをすっかり忘れるくらい、緊張しながら仕事してるだろ」

「んー。そうかな」

「だからといって陽太が七瀬ちゃんをないがしろにしてるわけでもない。誰だって、新しい世界に向き合うときは、それ以外考えられなくなるからな」

私はスツールに腰かけながら、ぼんやり陽太を眺める。

園田さんに質問を繰り返し、そしてその答えに頷いたり首をかしげたり。

手元の資料やタブレットを見ながら真剣に何かを考えている姿を見れば、今の陽太の頭の中には私の存在はないに違いない。

それどころではないのはよくわかる。

少しでも気を抜けば頓挫し会社に大きな損害を与えるプロジェクトの一員に選ばれたとき。

『とうとう俺の実力をいかんなく発揮できる時がきた』

と言ってガッツポーズを見せていた人と同一人物だとは思えない。




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