強引なカレの甘い束縛


あの時はひたすら選ばれたことを喜び、能天気に笑っていたけれど、現実を知るにつれて、自分が置かれる状況の本質に気づいたんだと思う。

プロジェクトを成功させるのは、容易いことではないと、ようやく気づいたのか、そして、失敗は許されないと、身に染みているのか。

普段の余裕と自信にあふれた陽太の姿を見慣れている私には、今の陽太の姿は思いがけないものだけど。

当然なのかもしれない。

誰でも新しいことを始める時には、その程度に差はあれど緊張するだろうし二の足を踏むに違いない。

どれほど優秀だと言われ、同期の中では一番に役職につくだろうと期待されている陽太でさえ、今回ばかりは余裕をなくしているはずだ。

ここに来る前に電車で私が眠ったのをそのままにしていたのも、自分のそんな姿を見せたくなかったからかもしれない。

だとしたら、私が寝たふりをしたのは正解だった。

自分の焦りを、そして緊張を私の知らない場所でやり過ごそうとしていたのならと考えると、陽太のことが今まで以上に愛しく思える。

そして、それほど仕事に追いつめられているのなら、何か手助けしてあげたいとも思う。

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