強引なカレの甘い束縛
「あ、すみません。そんなことを言いながらも、ホッとしている部分もあるんです。本気で好きだった人のことが、やっぱり忘れられなかったし。どこかで申し訳ないって思っていたんで……」
肩をすくめて笑う彼女の声は、小さく震えていた。
稲生さんの「本気で好きだった人」がどういう人なのかはわからないけど、彼女の心を今も独占している彼への想いが消えない限り、新しい恋にはすすめないんだろうと感じた。
私自身大した恋愛経験はないけど、それでも女心の機微は理解できる。
好きになれるかもと思って付き合った恋人との恋愛がうまくいかなかった時点で、彼女は恋愛をお休みしようと考え、仕事に集中しようと決めたのかもしれない。
彼女のような可愛らしい女の子なら、きっと今でも男性から声をかけられることは多いだろうし、彼女がその気になればすぐに恋人ができるはずだ。
それでも、こうして講習会に参加して新しい仕事への道筋をつけようとする稲生さんは、頼もしく見える。
恋愛ではなく、仕事でブラッシュアップを図り、新しい自分と新しい未来を手繰り寄せようとしているようだ。