強引なカレの甘い束縛
砂川さんがあらかじめ連絡しておいてくれたおかげで、私たちはすぐに食事を始めることができた。
まずはビールで乾杯したあと、私と稲生さんは輝さんが次々に出してくれるおいしい料理に舌鼓をうった。
混み合う店内を見渡せば、輝さんをはじめ忙しそうに動いている店員の男性が目に入る。
輝さんの方針で、男性のみでお店を回しているというけれど、どの男性も長身で見た目が良く、それも話題になっている。
食事はおいしいしお酒の種類も豊富。店員さんも男前となれば、癒されに来る女性客が多いのもよくわかる。
「それよりも、まずは食べなきゃ」
手元に置かれたパスタを食べながら、次は何を飲もうかと考えていると。
「あ、いっくん。……え? バイト?」
稲生さんがふとつぶやいた。
彼女の視線を追うと、お店の奥にいる男性にぶつかった。
「知り合い?」
「あ、はい。高校の同級生で……。あれ? イタリアにいるはずなのに」
知り合いらしい男性を見つめながら、稲生さんは首をかしげた。
今、〝いっくん〟と口にしていたけど、聞き覚えがあるような気がした。
彼女の口から、たしか聞いたことがあったようだけど、いつだったかな。
「ねえ、いっくんって誰……」
稲生さんに声をかけたと同時に、私たちの手元にすっとお皿が置かれた。
その音に、彼女が手にしていたお箸がぴくりと震えた。