強引なカレの甘い束縛


「どうした? うちの店員の中に気になる顔でもあった? みんないい男だろ? 見た目だけでなく、中身も厳選してるから、お勧めだらけだけど」

視線をカウンターに戻せば、おいしそうな匂いが漂う煮物が目の前にあった。

輝さんができたてを持ってきてくれたようだ。

いつの間にカウンターの向こう側に戻ったんだろうかと思っていると。

「彼女、お気に入りでも見つけたのか?」

相変わらずひとりの男性を見つめている稲生さんを見ながら、輝さんはそう言って笑った。

私はそれに何も答えられず、曖昧に笑った。

すると、稲生さんは我に返ったように体を元に戻した。

「あ、すみません。知り合いがいたのでびっくりしちゃって。あ、このかぼちゃおいしそう。だけど、パスタとかぼちゃの煮物って、不思議な組み合わせですね」

「まあ、深く考えずに食べてみて。俺の得意料理だから」

うれしそうに顔をほころばせる輝さんを見て、ふと気づいた。

「あ、このかぼちゃ、史郁さんの好物……じゃないですか?」

「ま、そのあたりは想像に任せるよ」

さらりとそう言って、輝さんは稲生さんを再び見た。

「市川と知り合い?」

「あ、はい、高校の同級生で。でも、彼はなんでもできて、カッコいいし、別世界にいる人気者で、私とはそれほど親しくなくて」

慌てる稲生さんに、輝さんはくすりと笑った。

「そうか。彼女、市川とは単なる同級生で、それほど親しくない……んだってさ」

「え?」

面白がっているとわかるその声に視線を上げると、輝さんは私と稲生さんの背後を見ていた。

すると。

「同じクラスだったし、かなり仲良くしていたと思うんだけどな。そうか、二年付き合っていた程度じゃ親しいとは言えないのか」

低い声がその場に響いた。



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