強引なカレの甘い束縛
おまけに顎にもざっくりと切り傷ができて、その場に血が広がっていたと、その日を思い出した忍さんがぽつりと口にしたことがある。
その表情には姉さんを想う痛みが溢れ、私の心も痛くなった。
気を失った私と、階段から落ちて起き上がれない姉さん。
忍さんは自分ひとりではどうすることもできないと判断してすぐに救急車を呼び、病は全身の打撲と頭部の切り傷、手に負ったすり傷もかなりひどかったけれど、私よりも姉さんの怪我の方がひどかった。
左足の足首を複雑骨折した姉さんには手術が必要で、入院生活は私よりも長かった。
私が退院したあとも姉さんは、忍さんの励ましのもとでつらいリハビリに耐え、順調に回復していったけれど。
退院の日を迎えても、以前のように歩くことはできなかった。
歩くことはできるけれど、ゆっくりと足を進め、ひょこひょことひきずるようになってしまった。
『ほんと、私ってドジだよね。だけど慣れれば前みたいに早く歩けるようになるみたい』
そう言って笑顔を見せた姉さんは、足に不自由を抱えたことはなんでもないことのように言っただけでなく「七瀬が大けがをしなくて良かった」と安堵の息を吐いた。
深い切り傷を負った顎にガーゼが当てられていることも気にせず、ただ私の無事を喜ぶ姉さんに、私は申し訳なさばかりが募り何も言えなかった。
私が家を飛び出したのは、両親を思い出して寂しかったからだと勘違いし、その寂しさに気づいてあげられかったことを謝る姉さん。
そうじゃない、私はただ、姉さんからの深すぎる愛情に怖気づいて、離れたかっただけなのに、と。
何度も言おうと思ったけれど、忍さんに止められた。