強引なカレの甘い束縛


気を失う寸前の私のつぶやきから、私の気持ちを察していたのか、「七瀬ちゃんの気持ちは俺が受け止めるから」と言ってくれた。

私の気持ちを正直に口にすれば、姉さんのことだから自分を責めるだろうと、忍さんに言われるまでもなく、理解できた。

そして、姉さんの体を傷つけた責任を感じた私は、それ以来、姉さんの望むまま、音羽家のお世話になっている。

両親から私を引き取って以来、私を何よりも大切に想う姉さんの気持ちを最優先に考え、私自身の気持ちは二の次にしながらの生活。

それは、生活に変化を求めず、現状維持のまま過ごすということだった。

就職活動のときにも、転勤のない事務職採用ばかりを選んでいたのも、そのせいだ。

けれどその理由は、両親の都合による引っ越しばかりで疲弊していた、悲しい子ども時代の名残だけではない。

姉さんが私を側に置いておきたいというのならば、その気持ちを拒むことはできない。

自分の安易な行動のせいで姉さんを傷つけてしまった反省と、後悔。

それも、大きな理由なのだ。

姉さんの私への愛情を素直に受け止めて生きていこうと思った私は、姉さんの勘違いをそのままに、姉さんのリハビリに付き合い、少しでも姉さんの足がよくなるようにと、祈った。

そして、姉さんの足は少しずつ回復し、今では多少ひきずることはあっても、生活にはなんの支障もない。

けれど、顎には3センチほどの傷が残っている。

正面からじっと見ればようやく気づくほどまでに薄くなったけれど、その傷跡を見るたび、私はあの日の自分の浅はかさを思い知らされる。

姉さんにけがをさせ、足にハンディを与えてしまった。

その責任をどう償えばいいのか、あれから五年以上が経った今も、わからないままだ。




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