強引なカレの甘い束縛
再び目が覚めたとき、隣に陽太の姿はなく、キッチンからは食器が触れ合う音が聞こえてきた。
その音に引き寄せられるようにベッドからおり、キッチンに行けば、ボリュームを絞ったラジオからの軽快な声と、フライパンを手にしている陽太の後ろ姿が見えた。
「フレンチトースト?」
「ようやく起きたか? それにしても、細いよな。ぶかぶかのTシャツに隠れてるけど、やせすぎじゃないのか?」
コンロの火を消した陽太は振り返ると、私の全身を見ながら小さく息を吐いた。
「夕べも抱きしめながら思ったけどさ、もう少し太ってもいいぞ。ウェディングドレスはレースがごてごてとふんだんに存在感を主張しているデザインがいいから、その重さに耐えられる体力づくり。それが七瀬の最重要ミッション」
「なにそれ。ウェディングドレス?」
「そう、ウェディングドレス。姉貴の結婚式でウェディングドレスを間近で見たけどさ、結構重いんだよな。身長も体重もご立派な姉貴でも大変そうだったから、七瀬みたいに華奢な体だと転んでしまうぞきっと」
「大げさだよ……」
突然ウェディングドレスなんて言葉を聞かされて照れた私は、陽太の顔から目を逸らした。
夕べの指輪の件といい、素直になりすぎた陽太にはなかなか慣れることができない。
熱くなった頬を手でおさえ、俯いていると、陽太が私の目の前に立った。
そして、私の肩を抱き寄せると額に唇を寄せた。
「かなり痛かっただろ?」
「え?」
陽太の言葉に視線をあげた。
そこには、苦笑しながらも優しい笑顔があった。
「階段から転げ落ちるなんて、慌てん坊の七瀬らしくて笑うけど、額も体も心も痛かったよな」
「あ……うん」
陽太は私の額の傷に唇で触れた。
今はもう痛みもなく、かなり薄くなっている傷痕を、いたわるように触れている。