強引なカレの甘い束縛


……なんて、今更、だけど。

「五年前は、転げ落ちる七瀬を助けられなかったけどさ、結婚式でウェディングドレスの裾を踏んだり、重すぎてこけそうになったら、俺がちゃんと支えてやる。だから、安心してごてごてたっぷりのリボンやらキラキラや、レース? そういうのをこれでもかって付けた豪華なドレスで俺の横に立ってくれよ。で、ふたりの幸せをみんなに見せびらかしてやろう。な」

「陽太……」

「七瀬がお姉さんから逃げ出してしまうほど追いつめられていた頃に、七瀬の側にいたかった。……いや、それよりも前、七瀬が両親の想いを理解できなくて悩んでいる頃に、こうして抱きしめてやりたかった」

陽太は、今日一番の力をこめて、私を抱きしめてくれた。

私の過去を思い、落ち込んでいるような声。

「この五年間、現状維持を最優先にしている七瀬の不安定な気持ちを刺激しないように、ひたすら見つめるだけだったけどさ、本当は、こうして俺が守ってやりたかったし、誰よりも側にいたかったんだ」

「そ、それは、どうも……ありがとう」

「どういたしまして」

照れることなく恥ずかしい言葉を口にする陽太に、これ以上どう応えればいいのだろうかと顔を熱くしていると。

陽太がゆっくりとした口調で言葉を続ける。

「七瀬がお姉さんに申し訳ないことをしたって後悔する気持ちは、きっと一生抱え続けるものだと思う」

「うん……」

「ご両親が亡くなって、ふたりきりの家族なんだ。お姉さんのことが気になるのは当然。だけど、俺が七瀬と結婚して家族になれば、俺にもお姉さんの心配をする権利がある。だから、七瀬ひとりで悩んだり自分を責めることはないんだ。七瀬の悩みは俺の悩みだから、俺にもちゃんと背負わせろ」

「……それって、なんだかおかしくない?……」

「いいんだよ。深く考えたりせずに、正々堂々、俺に頼れ。結婚するってそういうことだろ? 相手の喜びや悩みを分け合える権利を手にすること」

「そ、そうかな……?」

「そういうことだ。俺が七瀬の家族になったら、最強だぞ。いつでもそばにいて、七瀬を愛してやる。悩んでもいいけど、俺も一緒に悩むからな」

相変わらず強い力で抱きしめる陽太の言葉に、息が止まった。



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