強引なカレの甘い束縛


姉さんは私を重荷に想っているということだろうか。

それに、私を幸せにしなければならないって、なんだか違う気がする。

姉さんには忍さんをはじめ音羽家という新しい家族ができ、その中で自分の幸せを作っていかなければならないのに、そのうえ私を幸せにしなければならない理由はない。

もちろん、姉妹として互いに助け合うことは必要だけど、私は自分で自分の幸せを手に入れなければならないのに。

姉さんが自分の幸せを手に入れたように、私も自分の手で、そして自分の足でしっかりと立って、生きていかなければならないのに。

「でも……そっか。だから、就活用のスーツも用意……」

ぽつりと呟いた私は、その瞬間陽太に抱き寄せられた。

「あの百万円分の就活セットだって、やり過ぎだろ? それに、七瀬のためにこのマンションをキャッシュで一括で買うなんて、おかしい。音羽家が裕福なのはわかるけど、結局はお姉さんが七瀬を手元においておきたくて、忍さんに言ったわがままともいえる」

「……そのことには、ほんとは気づいてた。だけど、私もそれに甘え続けて、結局はあの就活用のスーツがきっかけで逃げ出して姉さんが怪我をして。だからもう、姉さんをこれ以上傷つけたくないから、ここからは離れないって決めた」

私の声はくぐもっていて、陽太がちゃんと聞きとれたのかどうか、わからない。

だけど、そんなことに構う余裕もなく、唇をかみしめた。

さっき、思わず口走ったけれど、私が会社で引っ越しをともなう異動がない事務職でいるのは、そのせいだ。

現状維持を望むだけでなく、姉さんが私の面倒をみたいのならば、それに逆らわずにいようと、思っているからだ。

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