強引なカレの甘い束縛
「今回の異動についてはもう決定されているだろうし、昨日は大原部長の視線が気になって仕方なかったよ」
信号が青に変わり、ゆっくりとアクセルを踏む。隣でぽつりとつぶやいた陽太の声は言葉とは逆に明るいような気がした。
「大原部長を気にしていたのは陽太だけじゃないよ。異動が近いだろう人みんながそわそわしていたもん。まあ、半期に一度の決まりごとだよね」
「決まりごとの渦中に巻き込まれるのかどうか、大変なんだよ。俺は大きなプロジェクトに召集されたばかりだから、今回異動させられる可能性は低いけどさ」
「たしかにね。どちらにしても事務職の私には関係のないことだけどね」
大通りを右折しながらつぶやいた私のその言葉に、陽太は何故かくすりと笑う。
「事務職だとはいっても、女は結婚相手によっては……」
「え? 何?」
陽太が何か言ったけれど、運転に集中しているのと、陽太の声が思いのほか小さくて聞き取れなかった。
とくに重要なことを言った様子はないけれど、その声音に違和感を感じた。
「いや、なんでもない。七瀬は相変わらず、異動するのが嫌で事務職のままでいたいんだなって思っただけ」
「うん、これからもそれは変わらないし、理由は前に言ったでしょ?」
「ああ。小さい頃から引っ越しが多くて落ち着かなかったから、これからはひとつの場所で落ち着いて生活したいってことだろ?」