強引なカレの甘い束縛


先週受けたシステム開発の講座の成績が、早速、大原部長の元に届いたらしく、午後いちで来てほしいと言われた。

まだまだ先のことだとのんきにしていた私と稲生さんは、とりあえず気持ちを落ち着けようと、一緒にランチをとっている。

成績がそのまま査定に響くわけではないけれど、会社の経費、就業時間を使っての参加。

あまりにもひどい成績はとれないとプレッシャーも感じている。

稲生さんも同じ気持ちのようで、会社近くのカフェに向かい合って座っても、なかなか食欲もわいてこない。

緊張をほぐすように、仕事とは関係のない話をしているうちに、私の婚約指輪の話になった。

というのも、今朝出社した陽太が、私との結婚について「ようやく山が動いた」と誇らしげに周囲に話してしまったのだ。

山というのは私のことらしく、今まで手こずっていた私の気持ちをようやく結婚に向けて動かしたということらしい。

なかなか絶妙なたとえだなというのは、部内の総意のようだ。

納得、できるような、できないような。

稲生さんは、そんな私の心境に気づくことはない。

「あの『ジュエルホワイト』で買ってもらったんですね。いいなあ、羨ましい。とくに結婚を急いでるわけじゃないんですけど、あの店構えを見たらひとりで入りづらいから、結婚したいなあとは思います。そうでなきゃ入る機会なんてなさそうですからね」

「うん、普段使いのファッションリングもあったけど、ひとりで気軽に入れる雰囲気じゃなかった」

「そうですよね。ひとりで立ち飲み屋で飲んだり、ひとり焼肉、ひとりカラオケはできてもあのお店は無理です」

ふふっと笑う稲生さんに、私は驚いた。



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