強引なカレの甘い束縛
「仕事は完璧にできるし、見た目も抜群だけど、子どもっぽいから……」
そこが魅力なんだけど、と思ったことは、口にしないでおく。
「惚気ないでくださいよ。『マカロン』でおふたりの仲の良さはよーくわかりましたから。それに、いつも落ち着いて仕事をしている萩尾さんがこうして頬を緩めて笑ってる顔を見れば、萩尾さんだって子どもっぽい純情さいっぱいで春川さんのことが好きだってわかるし……。もう、やってられません」
ふふっと笑う稲生さんの声が明るく響いた。
「指輪が出来上がったら、私にもいいご縁がありますようにって、拝ませてくださいね。そっか、ジュエルホワイトか、いいなあ」
ミックスサンドを食べ終えて、アイスコーヒーを飲んでいる稲生さんをチラリと見る。
何気なさを装いながら、その表情をうかがっても、この間『マカロン』で偶然再会した市川巽のことを聞ける雰囲気ではないなと、感じる。
バイオリニストとして活躍している市川巽。
正直、私には縁遠い世界のことで、どれほどの才能があり、どれほど有名なのかもよくわからない。
女性からの注目を浴びている素敵な見た目は雑誌やテレビで見たことはあるにせよ、じっくりと演奏を聴いたことはなかった。
クラシックというものに興味がなかったというのが正確だけど、ネットで色々調べれば、世界を相手にこれからの活躍が期待される音楽家としてたくさんの記事を見ることができた。
高校卒業後ヨーロッパの音楽大学に通い、そのまま活動を続けていた彼は、今年に入って、拠点であるイタリアの活動と並行して日本での活動を増やすこととなり、今は日本で過ごしている。
というようなことが情報として書かれていた。
ふたりは高校時代つきあっていたらしいけど、今もまだ、市川巽は稲生さんのことをあきらめていないようだし、稲生さんだって、まだまだ未練がありそうだったんだけどな。